蟲ソムリエの実践

昆虫食ブログです。前ブログ「蟲ソムリエへの道」 http://mushikurotowa.cooklog.net の続き

ブレードランナー2049に昆虫食は出てくる

「今年最高の昆虫食映画」と私の中で名高い、ブレードランナー2049。
 
次々と謎が暴かれ、そして複雑に分岐していき、最後にググッと収束していくネタバレ厳禁の見事なシナリオ。
 
前作を踏襲しつつ、しっかり超えてきたテーマの深掘りと独特の風合いの映像の数々。うーんすばらしい。私はとても気に入りました。
 
近未来の欲望あふれる猥雑で退廃的なハードボイルドSF 語りすぎない、説明しすぎない
 
「客を選ぶ」姿勢は健在で、それゆえか、興行的に苦戦しているようでもあります。
 
この映画に必要な前情報は
 
 
 
iTunesで 500円。
 
買って、早送りせずに、独特のテンポ感を、体に染み込ませて
意味のあるような無いようなまどろっこしいセリフまわしをしっかり頭に入れておきましょう。
 
 
以下は
 
 
ブレードランナー2049を見たあとに
 
短編
 
2022 ブラックアウト
2036 ネクサスドーン
2048 ノーウェイトゥラン
 
 
いずれもコンプリートした後、もしくは、
 
この映画を絶対に見ない
と心に決めた方のみ読んでください。
 
 

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劇中ではっきりと示された昆虫食は2つ
 
一つ目は
脱走した元衛生兵、ネクサス8型「サッパー」のカリフォルニアのファーム。
周囲には鏡集光型の太陽熱発電施設がある。コガネムシの幼虫を自分の食用に収獲してきたところ。
サッパーはタンパク質だといい、ニンニクを煮るシーンまではあるものの、Kがサッパーを「解任」するので食べるシーンはなし。食べてほしかった。
  
サッパーは2048年に「線形動物」を飼育しているとの描写がある。
2048短編ノーウェアトゥラン参照。
ビンに数頭入ったものを4000だと収益になるが、3000だとエサ代にならないとぼやく。複数のビンがカウンターにあったがいずれもサッパーのものかは不明。
エサ代というからにはどこからか購入しているらしい。品質、栄養をウリにしていたのでヒト、または何らかの生物に食べさせる用途と思われます。
ブレードランナーの世界では、妙に「線虫学」が発展していそうです。
  

 
 
サッパーが「農家」を自称したのが面白い、との指摘をいただきました。たしかにそうですね。
サッパーは地球外植民地、アウターワールドでの戦争要員で、衛生兵として派遣され、そこから脱走してきました。
与えられたアイデンティティから抜け出し、レイチェルの出産に立会い、そして農家としてアイデンティティを獲得した、その覚悟がみてとれます。
事前に「解任」にKが向かうことも知っていて、「農家」として死ぬことを選んだというサッパー。彼の生き様は尊敬すべきものがあります。
 
また、この泥水のプール、コガネムシの幼虫の養殖に適しているようにはとても見えません。コガネムシはフカフカとした比較的好気的な腐葉土で飼育できるので、ずぶ濡れに水没した嫌気的な泥水では、数日なら耐えられるとは思うのですが、成長には適さない環境に見えます。
 
また、レプリカントであるサッパーが気密性の高いスーツを着用してビニールハウス内に入っていたことから中のガスも、ヒトやレプリカントには適していない組成になっていると考えられます。ではそこで何が行われていたのでしょうか。
 

 
2つめは,
前作で逃亡した元ブレードランナーデッカードのラスベガスの隠遁地。養蜂を行っているシーンです。ラスベガスは2022年「ブラックアウト」の中心地となったため地球上で最も放射能汚染のひどい地域で無人機撮影に映ったミツバチの熱と動きでKは生き物がいることに気づく。
 
食べるシーンはなし。巣箱とは別に、エサ源と思われる円筒形の吊るし型の餌場が映る。室内には藻類を培養していると思われる水槽もある。ラスベガスなので蒸留酒だけはめっちゃある。木彫りが趣味のようで、いまは「本物の木」はほとんどないとのこと。
 
砂漠化した荒涼としたラスベガスで、十分に養蜂が行える花畑があるとは到底思えません。そしてKの捜索によってデッカードが見つかるきっかけになったのがミツバチなので見つかってしまうリスクも高まります。
 
ではミツバチに何をさせていたのか、何をたべさせていたのか。
 

 
以上の昆虫食の考察に入る前に、その背景となるバイオテクノロジーについて
時系列で把握しておく必要があるでしょう。
レプリカントも一連のバイオテクノロジーの重要な成果です。
 
以前のナウシカの考察でも苦労しましたが、
昆虫食の設定が、その世界そのものの根幹に関わる設定とリンクしていると
その考察次第で世界観が大きくかわるので、気を使います。これも大変だ。
 
しばらく昆虫食の話から迂回します。
それでは参りましょう。

 
まずは年表の確認です。パンフレットをもとに要約しました。
 
21世紀初頭
タイレル博士が人工生命「レプリカント」を開発する。
 
レプリカント ネクサス6型の脱走事件が起きる。
6型は4年しか寿命がないが、どうにか延命できないかとタイレル博士の元へ向かう。
どうやっても延命は無理だった、とタイレル博士は言い。タイレル博士殺害される。
人工のフクロウ、ヘビなどが市場に流通し、そのエサとなる飼料もそれ以上に流通していると思われる。
 
2019 新機能をつけた試作レプリカント「レイチェル」とブレードランナー デッカードが駆け落ち逃亡。
 
ーーーーーーーーここまでが前作「ブレードランナー
 
2020 ネクサス8型が開発される。眼球にコードが埋め込まれており、
それにより個体識別が簡単になる。寿命に制限がなくなる。

2021 レイチェルとデッカードの子供、後のアナ・ステラインが生まれる。レイチェル死亡、サッパーの農場に埋葬。アナは名前とDNAデータを改ざんされゴミ捨て場に孤児として隠される。
 
2022  ブラックアウト ネクサス8型と賛同した人間によりラスベガス上空の電離層にEMP攻撃を行い、大規模停電を誘発する。ブラックアウトによる電子機器の破壊によって流通が混乱し、食糧不足が顕在化する。同時にデータセンターを破壊し、金融と流通、食料生産に大きな混乱を引き起こした。アナ・ステラインのDNAデータが取り出し困難になる。デッカードはこのあたりからずっとラスベガスで隠遁生活。
 
2023 ブラックアウトにレプリカントが関与していたと騒ぎになり、レプリカント禁止法成立。ネクサス6型は寿命を迎え、長寿命のネクサス8型の「解任」をすることになる。このあたりでタイレル社倒産。
   
2025 天才科学者ニアンダー・ウォレスが画期的な遺伝子組み換え技術を開発。ライセンスフリーで提供したことで世界的な食糧危機が終焉する。
 
2028 倒産したタイレル社の負債をウォレス社が買い取る
 
2029 レイチェルとデッカードの子供、アナ・ステライン8歳が反体制派によってゴミ捨て場で拾われ、出生データを改ざんされて、免疫不全との病歴が偽造されて無菌室へ、偽造の両親も用意される。それまでの記憶は消去され、後にブレードランナーのKへうけつがれる。
 
2030 ウォレス社は遺伝子工学と記憶移植技術を開発し、レプリカントを制御可能にするための開発をする。
 
2036 ネクサス9型開発。レプリカント禁止法が廃止になる。
 
2040 ブレードランナーレプリカントネクサス9型が配属される。ネクサス8型の解任が任務。少なくともKはこれ以降に生まれる。(9歳未満)
 
2048 農家として線形動物を養殖していたサッパーは売り先のロサンゼルスの闇市でトラブルをおこし、捜査対象へ。(ノーウェアトゥラン)
 
2049 ブレードランナー K はサッパーを「解任」するため農場へ。サッパーは線形動物農家からコガネムシ農家へ転職していた。デッカードはおそらく30年にわたってラスベガスで養蜂をしていた。
 

 
以上の年表から3度のイノベーションがあったことが推察できます。
 
 
A,前作のタイレル社のイノベーション 
  人工のトリ、ヘビ、サカナ、タコ、そしてレプリカントタイレルの姪からレイチェルへの記憶の移動 ネクサス8型まで レイチェルへの妊娠出産機能 後に遺伝子編集技術であることが判明。
 
B,ブラックアウト後の食料生産を劇的に改善したウォレス社独自のイノベーション
  
C,そしてタイレル社買収後のウォレス社のイノベーション
  ネクサス9型、記憶の創作技術、移動技術 安定したレプリカントへ。
  妊娠には何故か成功しないので、どうにかレイチェルにつながるヒントが欲しい。  
 
 
Cのイノベーションが起こったのは
 
アナ・ステラインの無菌室への収容後ですので、記憶の創作とレプリカントへの定着が、精神的に安定したレプリカント、ネクサス9型の製造のカギだったのでしょう。
レプリカントにヒトの記憶を植え付けることは禁止、とされていますから
ヒトから真の記憶を移植されたレプリカントは、レイチェルやKに見られるように情緒的に不安定になる模様です。
 
アナ・ステラインの仕事は、創作した記憶をレプリカントに植え付ける恒久的な「精神安定剤」としての役割で
たくさんのレプリカントの一体、Kにアナステライン本人の記憶を入れ、「木を隠すなら森の中」というふうに隠すことが目的だったようです。

同時に、不安定な「自我」に目覚めるレプリカントを潜ませておくことで
反乱軍の要員を育てさせる目的もあったようです。
記憶を奪われて、病気もでっち上げられて
無菌室の中で敵の最前線で記憶制作活動にはげむアナ。
なんとも人権がないような気がするんですが、この世界の倫理観はなかなか不思議です。
 

さて、世界設定の考察が終わりましたので
その中で昆虫食がいかに役に立ってきたのか、考えてみましょう。
 
1,サッパーにおける昆虫食の役割
 
Kに聞かれてタンパク質だ、とサッパーが述べていたように、食用です。
ではあの泥水で何をしていたのか、と考えると、
好気呼吸をするコガネムシの養殖に適しているとは思えないので、
おそらく休眠を利用した貯蔵だと考えられます。
近くの太陽熱発電が曇天であまり集光していないように見えました。
 
農場のあるカリフォリニアは現代においては太陽光に恵まれた地域ですので、気候変動によって安定した太陽光が得られず、そして同時に電力事情も逼迫していると思われます。
 
そこで、サッパーは好気的なフカフカ腐葉土
養殖したコガネムシをビニールハウスと泥水の中に貯蔵し
一旦嫌気的な状態におき、休眠を誘導して常温保存していると思われます。
 
ここまで嫌気的な状況でコガネムシが長期に生きられるかはわかりませんので、
遺伝子編集によって品種改良されていた可能性もあります。
 
嫌気的な条件において泥水を分解するとメタン産生菌のはたらきでメタンが得られますので、そこからガスコンロに導けば、燃料を得てニンニクを煮ることもできるでしょう。
 
なのでサッパーは、季節や日照(電力事情)の条件によって
コガネムシの養殖シーズン、ニンニクの栽培シーズンと
休眠シーズン(およびメタン産生シーズン)を切り替えていたのではないでしょうか。
Kが捜索にやってきたのはちょうど休眠シーズンだったといえそうです。
 
また、木材がほとんど手に入らない、ということと、
レイチェルが埋葬された30数年前にあった枯木が分解されていないことを見ると、
環境汚染か日照不足かによって、地表の植物のほとんどは死に、多くの未分解の植物由来の有機物が地表に残存していると考えられます。
それらの腐葉土、腐植質からコガネムシを使って、自給的にタンパク質を濃縮していたのでしょう。
 
サッパーは2048年に、線虫を売りに行った先で問題をおこして買い取り票を押収されてしまいました。線虫の買い取り先で「他を当たってくれ」とふっかけられて渋々安い値段で納品していたので、なかなか他の業者に線虫を売りに行ったり、線虫のエサを買いに行ったりすることはできなくなってしまったのでしょう。
 
そこで、
足取りを消すためにたった1年で線虫からコガネムシへの転作をしたと考えられます。
2049年、Kが来るまでの1年でコガネムシ養殖を成功させたサッパー。
もともと線虫養殖の設備やノウハウがあったとはいえ、すごいです。農家として尊敬します。
 
細々とした電気から、レイチェルに捧げる花の栽培と、
ちょっと余裕のあるときにニンニクを栽培できるぐらいの日照はあった模様です。
大事に保存していた、とっておきのニンニクをKに食べさせたかったのかもしれません。
 
残念ながら2048年までやっていたはずの
線虫養殖の現場や、売られた線虫の利用先、線虫のエサなどは
結局見られませんでした。くやしい。
 

 
2,デッカードにおける昆虫食の役割
 
デッカードはレイチェルが子供を産んだあと、我が子には一切会わずに
最も汚染された地域であるラスベガスで隠遁生活をしました。
室内には微細藻類の養殖水槽があり、犬と蒸留酒を飲みながらダラダラと暮らしていました。
 
その中で、Kに見つかるきっかけとなってしまったのが、養蜂です。
見つかるリスクを極端に恐れていましたので、それでもやっていた養蜂は必須のことだったのでしょう。
 
しかし、現代の養蜂にはたくさんの草花が必要です。
荒涼とした砂漠地帯であるラスベガスにおいて、一体何を食べさせていたのでしょうか。
 
考えられるのは微細藻類です。
 
ミツバチにクロレラミドリムシスピルリナなどを食べさせて、きちんと生育するかはわかりませんが
花粉の細胞壁を壊して栄養にする能力はあるようですから、一旦ミツバチに
花粉代わりに微細藻類を食べさせて、
 
藻類の細胞壁を破砕・消化し
ヒトが食べやすいハチノコなどの栄養源にしていたと考えられます。
 
ミツバチそのものを遺伝子編集によって、藻類をエサにできるよう品種改良していた可能性もあります。
 
また、水から取り出したばかりの濡れた微細藻類は放置しておくと腐りやすいので、
一旦ミツバチに食べさせ、ミツバチの生きた体組織に栄養として貯蔵させることで
 
常温保存していたものと思われます。
加熱をしないことで、エネルギーや燃料を節約し、
熱に弱いビタミンを守ることもできそうです。
 
犬とデッカードとミツバチのフンは、希釈して調整して、微細藻類の栄養に戻されます。
 
つまり、デッカードはハチノコをつまみに酒を飲んで、被爆に耐えつつ木彫りをしながら懐メロを聴き犬と遊んで暮らしていたことになります。
 
わりといい隠遁生活ではないか。娘に会えないこと以外はとってもうらやましいぞ。
 娘よりも気ままな生活をしているではないか。これでいいのかレイチェル母さん。
 

 
以上のことから、
 
ブレードランナー2049において、
 
昆虫食はサッパーやデッカードの隠遁生活における、自給的なタンパク質生産の
 大事な要素として、きちんと仕事をしているように思えました。
 
 
ですが、残念ながら、
昆虫食が利用されていたのはこの世界のほんの片隅の、
イレギュラーな事例であったこともわかります。
 
 
昆虫食より大きな経済圏をもつであろう食用の線虫、
それと「3000ほど」で買えたであろう線虫のエサ、
 
そして生物をどのように遺伝子編集をするとレプリカントができるのか。
 ヒトとくらべてなぜレプリカントが効率がよく、頑強なのか。
 6型の寿命はいかにして克服されたのか
 
Kのマズそうな食事に昆虫は含まれていたのか。
レプリカントの栄養要求性はヒトと同じでいいのか。
ブラックアウト後の食料生産を劇的に改善したウォレス社の貢献とは。
 
なぜウォレスはレプリカントの妊娠に成功しないのか。
 記憶を創作したり移植したりするっていったいどういう。
 
 
などなど、物語の根幹に関わる技術は
 
雨だか霧だかスモッグだか砂嵐の向こうでなかなかたどり着けないようです。
 
私もあれやこれやと考えたのですが、かなりの分岐が考えられることと
タイレル博士も、ウォレス博士も、重要な技術者の言うことがポエティックすぎて
必ずしも真実を言っているようには思えなく、断念しました。
 
 
うーん。
 
とくに気になるのは食用の線虫とそのエサ。
 
サッパーには転作することなく2049まで養殖していてほしかった。
 
そしてレプリカントは食えるのか?というのも気になります。
命令すれば自殺するので、屠畜の手間や危険性が最も少ないと思われるネクサス9型。
頑強なので肉質はきわめてカタそうです。
熱にも強いので、煮ても焼いても 食えなさそう。
 
妊娠機能をつけて、肉質をやわらかくして、
アウターワールドで食肉となる未来がやってくるのか、

それまでに自我に目覚めたレプリカントによる
革命が成功してウォレス博士が失脚し、人権を獲得するのか。
 
 
 
いま革命軍はサッパーやデッカードと同じように
昆虫を食べながら隠遁生活をしているでしょうから、
革命が成功すれば、おそらく昆虫食の未来が待っていると思いますので
私は革命派を応援することにします。
 
 
次作が待ち遠しいですが
もうあと30年後になってしまうのでしょうか。